ファウスト
きっと私は幸せなのだ、と、頭ではわかっているつもりでも、なぜか欠乏感が拭い去れない。
私の身に染み付いてしまったのは、幸福よりも不幸だ。
これでは、すっかり幸福へのセンサーが壊れてしまっているみたいではないか。
それでも幸せになりたいと嘯いてしまうのは、そうすることで生きる目的を、いや、生きる言い訳をし続けているのだ。
自分は幸せにならない自信がある。
そうして生きてきた。
あの日からしばらく、3年くらいは、それまでが嘘のように毎日が楽しく感じ、
そして自分の幸せを心から感じた。
それでも、人間とは欲深いもので、その状態に慣れてしまうのだ。
常に自分に付きまとう不幸の影に、やはり絡めとられてしまう。
あぁメフィストフェレス、私を黄泉へと連れて行ってしまえばよい。
一瞬見せてもらった夢は本当に幸せだった。
この尊い幸せに私が慣れきってしまう前に、まだ輝いているうちに、全てを終わらせてしまえばよいのに。